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返報2008-12-27 Sat 00:09
嫁のターン・・・かもしれない
「不味い・・・」 なつきのマンションで4人揃っての食事も、週末ともなれば当たり前となった光景。 未だ料理の揃わぬテーブルに腰掛け、つまみ食いするなつきの姿もいつものこと。 だが、つまみ食いを終えてぽつりと呟いたなつきの一言は、いつもの団欒をぶち壊すには十分な破壊力を持っていた。 たまたま聞いてしまったナツキばかりかシズルまでぎょっとした顔で一斉になつきに目をやる。 「なつ、今なんて・・・?」 「や、この料理、マズもがっ!」 質問をしておきながら、なつきが再び同じセリフを吐こうとすると慌ててその口を塞ぐナツキ。 そのまま恐る恐るシズルを見やると、ふるふると首を横に振って、自分の料理ではないと訴えている。 残る1人―――なつきが今しがたその味を否定した料理の作り手、藤乃静留は現在キッチンにいる。 4人での食卓といっても、静留が料理を作っているのはなつきのため、といっても過言ではないはず。 そのなつきに「不味い」と言われたと知ったら・・・考えるだけでも恐ろしい。 突然の危機的状況に、どう対処すべきか思考を巡らせていたナツキだが、最後の料理を持ってキッチンからこちらにやってくる静留の気配を敏感に察知する。 解決法を見い出せぬ今、正直すぎるなつきの口は塞いでいた方が賢明だろう。 何も知らずにやってきた静留は口を塞がれているなつきに不思議そうな顔をしている。 「ナツお姉ぇはん・・・何してはるんどすか?」 因みに最近、静留はナツキを先生と呼ばなくなった。 曰く―――家に帰ってまで「先生」と呼ばれるのは窮屈だから。 3人のやり取りを知らずに、静留はテーブルの上を整えつつも、答えを待っている。 更に、なつきが「んーんー」と暴れ出したので、口を塞いでいたナツキはシズルにアイコンタクトを送ると、ゆっくりと手を離す。 シズルがその意思を正確に汲み取り、なつきが言葉を発する前に静留を再びキッチンへと誘導する。 「苦しいじゃないか!なにするんだっ!」 「これ作ったの静だぞ!?不味いとか言うな馬鹿っ!」 「・・・うっ。・・・じゃあナツ姉ぇも、ちょっと食べてみればいいだろ!」 額を突き合わせ、ひそひそと言い合いを続ける二人だったが、言葉に詰まったなつきがぐいっと皿を押しつける。その中身をちらりと目視し、見た目には問題がないことを確認する。そこまで言うなら、とナツキは軽い気持ちでひょいと一つまみ口に含む。 瞬間。 「ぐっ!」 一声唸ったかと思えばバシッと掌で口元を押さえ、膝から崩れ落ちる。見る間に顔が青ざめ、額にはびっしりと玉の汗。 「ちょっ・・・これ・・・ひどっ・・・・」 ナツキは涙目になりながらも必死で口内の異物を飲み込む努力を続ける。が、飲み込みたいのに、喉はそれを拒否する。防衛本能だろうか、とにかく体は全力で嫌がっているとしか思えない。 自身も「不味い」と言っておきながら、ナツキのあまりのリアクションに、なつきの顔がだんだんむすっとしてくる。 青い顔のまま口元を押さえ、もう片方の手を壁について息を整えているナツキ。肩で息をしているその背中を一瞥したかと思うと、なつきは再び皿を自分の前に戻し、一気にその中身を口内へと押し込む。 再び静留をキッチンに残し、シズルがリビングに戻ってきた時には既に皿の中身の大半がなくなっていた。 味見をしたわけではないが、不味いと言っていたのに皿を持ち上げて大量に掻き込んでいるいるなつきを慌てて止める。 「なつ!?何してはるん!?」 静留に聞こえないよう小声で制止する間も、みるみるうちに口元へ運ばれ、空になる皿。 なつきがきつく眉間にしわを寄せながらも、「ごち・・・うっ・・・そぉ、さま・・・」と律儀に手を合わせるのと、ようやく立ち直ったナツキが振り返るのとほぼ同時だった。 ―――あれを食ったのか!?全部っ!? 最初の発言を聞いたとき以上に驚いた顔で、慌ててなつきに駆け寄る。 「なつっ!腹は!?大丈夫か?舌は?熱は?」 「・・・そないに不味かったん?」 なつきの背中を必死に摩ったりおでこに手を当てたりと、あまりの慌てぶりと心配ぶりに思わずシズルが感想を求める。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宇宙の味がした」 長すぎる沈黙の後、ナツキの口からもたらされたのは料理の感想とほど遠い単語。 頭上で交わされる二人の会話に、なつきは不機嫌そうに口を挟む。 「静留が作ったものは私が食べる。だから文句ないだろ」 いくらナツキといえども静留の料理を悪く言われると面白くないのだろう。 青い顔をしながらも潔く言い切るなつきにシズルは感動し、ナツキにこっそり尋ねる。 「ナツキ。もし、うちが料理に失敗しても食べてくれはる?」 「も、もちろんだとも!シズルが作ったものであれば何だって食べるさ!」 甘い空気を醸し出す寸前。タイミングを見計らったかのように静留がキッチンから現れた。 真っ直ぐなつきに近づき、テーブルの上を覗いて見れば、妙に目立つ空になった皿。 「・・・もぉ食べてしもたん?」 「あぁ。すまん。腹が減ってたから待ち切れなかった」 日頃からマイペースな行動の多いなつきの性格が幸いしてか、静留はそこまで不審に思わなかったようだ。微妙に無表情なのもそう珍しいことではない。 「もう一品、追加しましょか?」 「いや、いい。それより、ほかの料理が冷めるだろ、早く食え」 自分が食べることには構わず、なつきのことを優先させる静留だが、本人に促され席に着く。 なつきもなつきで、食べ終わったと言いつつも席を離れることはせず、静留が食べ終わるまで食後のお茶を啜ったり会話の相槌を打ちながら座って待っていた。 全員が食べ終わり、シズルと静留が片づけを終えたばかりのキッチン。 錠剤を脇に置き、コップに水を注いでいる静留の見慣れぬ仕草に、シズルが声をかける。 「静ちゃん、具合悪いん?」 「んー。うちやのぉて、なつきに胃薬飲ませよ、思いましてな」 料理が失敗していたことは静留には勘付かれないようにしていたはずだが、と考えているシズルの横を、薬とコップを持った静留がするりと通り過ぎる。 そのままリビングへ向かうかと思えば、何かを思い出したようにぴたりと足を止めて振り返る。 「今日のなつきが全部食べてしもた料理な、ほんまはシズお姉ぇはんに食べてもらお思て、ちょぉいろいろ工夫しとったんよ。お姉ぇはんの感想聞きたかったんやけど残念やったわぁ。せやけどまた作りまっさかい、今度はたーんと食べておくれやすv」 静留はにっこりと笑顔を残し、今度こそリビングへと足を進めた。 1人キッチンに残されたシズルは、向けられた言葉と笑顔にキョトンとした表情をしていたが、瞬時にその意味を理解し、肩を震わせて忍び笑いを洩らす。 「ふっ、ふふふふっ。まさか、そないな方法でやり返してくるとは思いませんでしたわ。・・・うちも、いけずはほどほどにしとかなあきませんなぁ・・・。ふふふっ」 反省の言葉を呟きつつも、その表情は心の底から楽しそうで、静留の後を追うようにリビングへ向かう足取りも羽のように軽い。 「なつー。お薬うちが飲ませてあげましょか?もちろん、く・ち・う・つ・し、どすえv」 「ぶはぁっ!シズねっ!!・・・あぁっ!静留、スマン!冷たかったか!?」 「・・・・大したことあらへんよ。なつき、口の周り濡れとります。じっとし・・・」 「はいv拭けましたえ。なつはほんま可愛らしいなぁv」 「あ、ありがと。シズ姉ぇ」 「〜〜〜っつ!シズお姉ぇはんっ!」 「なんどすー?」 「今日も、平和だなぁ・・・」 3人のドタバタしたやり取りを横目に、ナツキは1人窓辺に座って夕刊を捲っていた。 |
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